YouTube動画「なぜスクールに行っても図面が描けないか?【Jw_cad 使い方.com】」を見て

https://www.youtube.com/watch?v=YMUH8GZzSiI

> mizutori_rokurou
> チャンネル登録者数 2.08万人

> 1,272 回視聴  2022/11/17  Jw_cad 使い方.com
> ITスクールに行ったが、図面が描けるようにならなかた方へ。
> 私の考え、アドバイスを話しました。

かなり昔、パソコン関連の雑誌か何かで「教育目的で作られたプログラミングの課題をいくら教えても現実の問題を解決する力は身につかない」という主旨の文章を読んだ。内容はほとんど忘れてしまったが、今でもたまに思い出す。このYouTube動画のタイトルはその記憶を思い起こさせるものだったので、「プログラミング教育以外の分野でも同じようなことが言われているのか」と興味がわいた。

プログラミングの教育という文脈の中で「現実」がどのように位置づけられているものなのか、プログラミングについて拙いスキルしかない私は実感をもって理解できていない。たぶんこれは、言い換えると「私はプログラミングについてリアルな感覚を有していない」ということなのだろう。今回はCADソフトの授業が仕事に使えるかどうかが主題なのでちょっと話が違うのだが、それでも探ってみると得るものがあった。

まず、動画の内容をまとめてみる

「授業で使った図面は描けるが仕事の図面は描けない」ということはどうして起きるのか?

  1. 引っかかる所が皆違う:
    一人一人について観察しないと生徒が困っている所を講師は気が付かない。それぞれの引っかかる所を直さなければ、いつまでたっても「Jw_CADは難しい」ということになってしまう。
  2. 講師はスクールに時間で雇われているにすぎない:
    今のITスクールの仕組みの中では、講師は決まったことを決められた時間内にこなさなければならないので、生徒一人一人を見ている余裕はない。教えるのが楽なように・トラブルが起きないようにあらかじめ決まったことしか教えない。

それではどうすればよいのか?mizutori_rokurou氏は生徒の操作画面を講師に見てもらって教えてもらうというのが一番だと思っている。なぜなら

  1. 生徒が操作しているところを画面を共有して見ていれば、講師は生徒が引っかかっているところをピンポイントに解決できる。
  2. さらに、便利な使い方があればその場で指摘できる。
  3. 便利な設定も指摘できる(ダウンロードした時のままの設定で使っている方が初心者には結構いる)。

比較のため、このような教え方の短所も指摘している。

  1. 費用が掛かる。
  2. 講師側に負担。(生徒の都合に配慮してレッスンの時間を決めるようなこともしているようだ。)
  3. 少人数にしが対応できない。

オーダーメイドのレッスンをしていると、その人の困っている所をピンポイントで見れる。こういうやり方は選択肢の一つとして良いのではないか。

以上。

CADソフトで作成された「仕事の図面」とは

この動画を見ただけでは「CADの仕事」や「CADで作った仕事の図面」がどのようなものであるのか、私にはわからなかった。動画そのものが「なぜ私は少人数・オーダーメイドでCADを教えているのか?」というような題にした方が良い内容だったので、そうなっても仕方がない面が元からあったかもしれない。またそれ以前の問題として、そもそも私には建築物や機械の設計や製作について基礎知識がないのも原因だった。ここで言われている図面がどんな図面でどのように描かれているものなのか見当がつかなかったからだ。

「仕事の図面」が実際にどのように使われているのか見てみたいのだが、自分が何を知りたいのかを検索エンジンやら他人やらにどう伝えればよいのかわからない。そのためモヤモヤした気持ちを抱えることになってしまったのだが、「とりあえず」ではあるものの問題は意外と簡単に解決した。

所用で外出した時に寄った古書店で見つけた『これで完璧!伝わる建築実施図面の描き方』(建築知識(編), エクスナレッジ, 2014年初版, ISBN978-4-7678-1732-3)という本が良い手がかりとなったのだ。建築関係の実用書を見れば建築現場で使われている図面がどんなものか見ることができるのではないかと思ったのが運よく当たりだったらしい。

そもそも建築実施図面とは何か。ConMaga「建築図面とは何か?種類や作成ポイント・コツを丁寧に解説」( https://conma.jp/conmaga/article/104505/)によると

実施設計図は建築プロジェクトの詳細な設計情報を示す図面であり、建物の具体的な 形状や構造、設備などを明確にするために使用されます。この図面は施工段階に おいて、建築士、エンジニア、施工業者とのやりとりを円滑にし、建物を実際に建設するための指針となります。

とある。そして実施設計図は「意匠図」(建物の外観やデザインを示す)と「構造図」(建物の骨組みや基本的な構造を示す)と「設備図」(建物の設備に関する情報を示す)といった種類に分類され、さらに用途や業務に応じた様々な図面が作られているようだ。(上記文書による。)

引用文での言い回しを借りると、古本屋で見つけたのは、「建物の具体的な形状や構造、設備などを明確にするため使用され」る図面についての実務的なあれこれが書かれた本だった。基本的なことから体系的にまとめられているという本ではなかったので、知識のない私には内容がほとんど分からなかった。その反面、図面をめぐって関係者がやり取りをしている有様が想像できる作り方がされてあり、参考になった。(ちなみにこの本は『建築知識』という雑誌の特集記事2回分を加筆修正してまとめたものだそうだ。)

建築実施図面を作成する前の設計段階においても様々な図面を作成しなければならないであろうことを考えると、CADオペレーターと呼ばれる人々が必要とされる理由がわかるし、その人たちが建築プロジェクトの中でどのように働いているであろうかも見当がつく。(上記の本にCADオペレーターは出てこなかったようだが、そういうことも想像できる。)業務内容にも依るかもしれないが、多くの建築図面はデータエントリー的な一方通行の手順ではおそらく作れない。それどころかCADオペレーターはアシスタント的な業務ができなければ一人前とは呼べないのではないか。発注者からの指示といくらかの資料(データ?)と前提知識を元にたたき台となる図面を描き、そこから納品できる段階に至るまでのいろいろなやり取り(追加訂正や設計変更など)をこなすという感じで仕事ができなければ、発注者側としては安心して任せられないのではないかと想像したのだ。

最後に

ここまで来てようやくCADで作った図面について、初心者以前のレベルではあるものの、現実に触れることができた気がする。プログラミングにしろCADソフトによる図面作成にしろ、この、「現実に触れる」という体験を学習過程のどこかで得られるかどうかは大きな差がつく要因となりうると思った。だからこれからは何かを学ぶにあたってはこのことを忘れないようにしよう。

以上の考察は個人的には実りあるものだったが、この文章自体は「議論が空振りしている」と言われもしかたないものになってしまった。ここまで私は「仕事」という言葉に「現実」を重ねてきたが、なぜそうするのか説明できていないのはまずかったような気がする。プログラミングの教育の文脈で言われた「現実」は、おそらく、日本語の「現実」ではなく英語の「Real World」という言葉で元は議論されていたものだろう。そして「Real World」は「リアルな世界」と言い換えられるはず。ならば「リアルな世界の問題」とはどういうものになるのだろうか。というあたりまで私が分かっていれば、もう少し人に伝わる文章が書けたように思われるのだ。これについては日を改めて挑戦してみたい。